Luinrhofal

文筆家きどり

一、アド・リブ

 声は、
 まるで泡みたいで 気にも留めていなかったのに
 わたしの中に入り込んだかと思えば
 身体の底で 音を立てて弾けた

 大切に取っておいた 一千本の色鉛筆を
 おしげもなく全部使って
 世界を彩っていく あなた
 その口笛が 悲しい唄をかき消した

 声は、
 とてもドラマティックで きらきらとかがやいて
 わたしの心をさらったかと思えば
 手を取って 舞台へと引き上げた

 方々から向かってくる いくつもの光を
 ためらいもなく全部浴びて
 世界を語っている あなた
 その歌声に 瞼を下ろして聴き入る

 どんな台詞を言えばいいのか 知らないけれど
 ただ この思いを伝えることで
 きっと
 あたらしい世界が 生まれる

二、ながれ

 散ってしまった桜たち
 さあ
 目を閉じて
 この匂いがわかりますか

 短くなってゆく夜たち
 さあ
 耳を澄まして
 この風を感じますか

 立ち止まっても
 時間は転がっていて
 息を止めても
 世界は回っていて

 ほら
 目を開いて
 見上げてみれば
 空が
 もう夏色に染まっています

三、ふる・ふる・あめ

 頭上でしているノックの音が
 あんまり大きかったので
 目がさめてしまいました
 ずいぶん長くねていたようで
 思いきりのびをしてみたら
 おや お外に出ちゃいました

 頭上かなたを見上げてみたら
 空はすっかりまっくらで
 雨がふっていました
 とってもきもちがよくなって
 思わず歌をうたったら
 おや おとなりを起こしちゃいました

 おとなりがおとなりを起こして
 おはよう おはよう
 声があちこちでかさなります
 ふるふる雨にゆかいになって
 ほら
 コーラスがはじまりますよ

四、あゆみ

 あのこの「ごめんね」で
           ひとつ
 あたしの「うそつき」で
           ひとつ
 まあるい あたしに
 とげがはえてゆく

 あなたの「さよなら」で
           ひとつ
 あたしの「かなしい」で
           ひとつ
 まあるい あたしは
 ころがらなくなる

 いくつものとげが
 すきまなくつまって
 いつか
 ひとまわり おおきな
 まるに なれますように

五、ぼくらの天気予報

 太陽はいつでも照っているけど
 ときにどこかへ閉じこもって
 ときにかすんでゆられたりして
 そう思うと わたしと同じかなあ

 雲は今日も澄ましてるけど
 ときに切なく小さくなって
 ときに大きくふるえたりして
 そう思うと あのこと同じかなあ

 雨はやっぱり気まぐれだけど
 ときに強くきびしくなって
 ときにやさしくつつんだりして
 そう思うと あなたと同じだなあ

六、れむ

 昨日と今日が接吻けする頃
 ぼくの頭はメルヒェンに満たされ
 自由のきかない身体は ただ
 言葉を綴っているのだ

 うさぎが杯で人を殺したらしい
 彼は落ち続けている
 繋がりのない場面をまたぎ
 また何か書きつけているのだ

「なぜ そう必死なの」と尋ねられ
 ペンを止めないままで
 口唇だけが答えた
「明日 提出なのです」

 ぼくは 今
 どうやら
 れむという睡眠の中にいるようである

七、おやすみ

 冷たい風が夜の背を押して
 わたしの元へと星を運ぶ
 まばたきするほどまぶしくて
 あたたかな毛布にくるまる

 わたしは眠るけれど
 あなたはどうするの?
 同じ夢を見たいけれど
 あなたはどう思う?

 この想いは重なることなく
 暗い部屋にたゆたうばかりで
 なぐさめもなく
 ただ枕を濡らす

 この悲しみを
 この哀しみを
 この愛しみを
 忘れられるなら

 頬を流れるこの雫を
 雲の上へ乗せて
 どこか 知らない場所まで
 連れていってもらおう

 そうすれば
 わたしはきっと
 あなたのことを
 あなたのことを

八、すべては、

 ラジオから流れる
 いつかのメロディ
 混ざるノイズさえ変わらず
 匂いまでしてきそう

 修学旅行の最後の夜
 みんなして布団に隠れ
 持ち込んだラジオ聞きながら
 話をしたっけ

 あいつの姉は美人だとか
 あの先生の新しいあだ名とか
 あの娘のことがすきだとか
 朝日が窓から挨拶にくるまで

 音に乗ってよみがえる記憶
 変わってしまったあらゆることに気付いて
 ああ
 願っていたのはこんな自分じゃなくって

 みんなどうしているんだろう
 おれはなにしていたんだろう
 聞こえてくるボーカルの声は
 あいかわらずきらきらしている

 ステージの上の彼みたいに
 汗も気にせず全力疾走していたはずなのに
 あの頃のおれは
 いったいどこへ行った?

九、文筆家きどり

 くるくると 指先でもてあそぶ
 いとしい いとしい わたしだけの

 光がすけて きらきら
 ながれるような すがた

 握ってみると きゃしゃで
 折らないように そうっと

 つたう つたう ブルーグレー
 アンデルセン うたうように

 えらびにえらんだ 便箋は
 せますぎるけど やってみるわ

 つづるメルヒェン うたたち
 いつかみたなつかしさ

 スキップよりも かるく
 春のツバメよりも はやく

 めぐる物語
 わすれないうちに

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